捏造最終回の序盤あたりまで




※3〜4話放送頃に妄想したものの書きかけです。矛盾+途中止め注意!


―――序―――

 黒いスーツで身を固めた背の高い男が問うた言葉に、赤い影は呆れを含んだ声で投げやりな答えを返した。
「魂の味なんて知らないワよ。特に知りたいとも思わないし。アタシは確かに恋に生きるオンナだケド、そうである前に一個の死神よ」
「ではなぜそうまでしてあの害獣に肩入れするのです」
「だってセバスちゃんったらイイ男なんですもの。応援したくなるのは当然じゃない」
 あっけらかんと言い放つグレルに、ウィリアムはあからさまに眉を顰めてみせるが、やはり何の効果もないようだ。それどころか僅かに生じた沈黙を埋めるのは自分の権利だと言わんばかりに赤い死神はさらに言葉を続ける。
「確かにあっちの執事さんも魅力的だけど。アタシはああいうやり方キライなの」
 彼らが今立っているトランシー邸の屋根からは、広い庭で激しく戦う黒い影の動きがはっきりと見下ろせる。どちらに加勢するでもなく、2人の死神はただその光景を見つめていた。
「無知による罪からの解放なんて救いでも何でもありゃしないのに、どうしてそんな考えに至るのかがアタシには分からないワ」
「害獣の行動原理など理解する必要はないでしょう」
「そんなコト言いながら結局ウィルもついて来てるんじゃない。あ、それともアタシの貞操を心配してくれちゃったりし「黙りなさい」
 分厚い紙の束を几帳面に分類して収めてある黒いファイルの角が盛大にグレルの頭にヒットした。突然降ってきた痛みに思わずしゃがみこんだグレルの手からデスサイズがぽろりとこぼれ落ちたが、この手の制裁には不本意ながら慣れているグレルのこと、さっと手を伸ばして掴み取り、その勢いのまま立ち上がる。
「ちょっと! 危ないじゃないの!」
「寝言はベッドで休んでいる時にだけ言いなさい。それなら誰も咎めませんから」
「ちょっと言ってみただけなのに。ウィルのいけず」
 ぶーたれるグレルにはそれ以上構わず、ウィリアムは眼下で続く戦いの向こう、広大な庭にそびえる巨大な迷宮へと目をやった。あの中を今もさまよう魂は出口を見つけられるだろうか。それとも――。
 いずれにせよ、決着がつくまではただ見ている他にできることは何もない。黒い死神はお決まりの動作で眼鏡の位置を直しながら、葬儀屋の言葉を思い返していた。

 

「用心おしよ。境界線上に立った時、落ちるのは我々が考えているよりもずっとリアリティのある選択肢に見えるものだから。特に、君のようなタイプは要注意だ」
 引退して久しい今もなお伝説の名をとどろかせる先達はそう言って曖昧に笑った。その言葉の真意をウィリアムは未だに量りかねている。悪魔という存在にさほど嫌悪感を抱かず、あまつさえ私情で特定の人間に肩入れし、職務を蔑ろにした過去のある隣の派遣員ならともかく、ただ淡々と職務を遂行することのみを考え、障害発生の第一因である悪魔に対しては嫌悪感しか持たない自分の方が道を誤る可能性が高いとは考えられない。だが伝説の死神とまで言われた彼の功績が一片の誇張も含まぬ事実であることを知っているウィリアムには、彼がいいかげんな発言をしたとも思えない。一体彼は現役時代に何を見てあの考えに至ったのか。
 いつかロンドン大火を引き起こしたあの堕天使であれば、みずから獣になり果てることを選んだ神の心情を推し量り共感することもできただろうか。

 

―――壱―――

「昼を夜に、砂糖を塩に、濃紺を金色に染め上げる……それが、トランシーの執事」
 主のあるべき世界が悲嘆に埋め尽くされているのならば、世界の理を反転させて閉じた小さな世界を作ればいい。主を蝕む丘の呪いは誰にも見通せぬ無知の闇に、同胞に太陽の光を思い出させる灰の女は物言わぬ人形に、そして、時の大工が丹精込めた家は旅の終着点に。家に始まり家に終わるウロボロスの輪こそが魂の揺籃に相応しい。
 それなのに嵐はやってきた。


 ここまで書いたあたりでクロたんの奇行が目立ってきたのでお蔵入りした代物です。