拍手に置いてた学パロ(ウィルグレ)




 消灯後の寄宿舎が静かだというのはあくまで平常時のことであって、今夜のような日には当てはまらないと、ウィリアムはため息とともに実感していた。昼過ぎから降っていた雨は激しさを増し、消灯寸前になって雷までも鳴り出したのだ。そのまま消灯時間は過ぎたけれども雷はますますひどくなるばかりで、どうしても寝つけない。カーテンは閉まっているが、それでもカーテン越しに稲妻がやけにはっきりと見え、窓もきっちり施錠しているというのに雷鳴がうるさくてかなわない。
 そして、更に自分の睡眠を妨害しているのが上段のベッドからしつこく聞こえる寝返りの音。うるさい。耳障りだ。眠れないまま時間だけが刻々と過ぎ、ウィリアムはかなり苛立っていた。
「うるさいですよ、グレル・サトクリフ。怖いにしてももう少し大人しく……」
「怖くなんてないわよ!ただ……う、うるさくて眠れないだけ!それだけヨ!」
 カン高い声とともに赤い頭が逆さ向きに降ってきた。
「だったら消灯後くらい大人しくして頂きたいものですね。安眠妨害です」
 グレルの発言を信用したわけではない。もう5月だ。寒くもないのにどうして震える必要がある?
 そのときだった。ひときわ大きな雷鳴がとどろいた。ウィリアムもさすがに眉をひそめたが、グレルに至ってはいっそ滑稽なほどにすくみ上がったかと思うと、短く悲鳴をあげて再び布団にもぐりこんでしまった。
「やっぱり怖いんじゃないですか」
 別にからかっているわけではない。誰だって苦手なものの一つや二つはあるだろうし、それを云々するつもりはない。ただ自分は、これ以上安眠を妨害されたくないだけだ。
 しかしグレルはからかわれたのだと受け取ったらしく、ベッドのわきから顔だけを出してウィリアムを睨みつけてきた。その目はもはや泣き出す寸前、否、既に半泣きの状態である。
「怖くなんかないワ!本当よ!」
 ――結局睨み合いは雷がおさまるまで続き、翌朝二人は一日中睡魔と闘う羽目になったのだった。