パパラスボス+タナカさん墨執事妄想の1コマ
「臈たげなる青き華」




 タナカが新しく用意した指輪をはめたヴィンセントは、うん、と満足そうに頷いた。
「いい感じだ。あの指輪は少しばかりゆるかったからコロコロ遊んではディーによく叱られてたんだよね。レイチェルにも盛大に笑われたっけ。シエルはまだ小さいからぶかぶかなんだろうな」
 ぴったりと指になじんだ指輪は裏社会の王を証すものと酷似していた。ただ一つ、石が嵌まっていない点を除いては。百合の形が刻まれた繊細な爪はむなしく空を噛んでいる。
 銀の台座だけという奇妙な指輪をはめた右手でさらりと髪をかきあげれば、普段は隠されている耳の後ろの柔らかな皮膚の上に刻まれた契約の印が顔を出す。
「この指輪は偽りの王を証すものにすぎない。お前との契約は今も変わらずあの指輪と共にあることはもちろんわかっているね、タナカ」
「はい、重々承知してございます」
「早くあの子に見せたいな。なんといっても育ち盛りだ。次に会う時にはどれくらい背が伸びてるだろう」
 楽しみだ、と柔和に笑う主の傍で、タナカはさりげなく主の指輪に目をやった。主との契約は悪の貴族の象徴たる青き石にある。主はこの指輪を偽物だと断じたが、正確には台座のみのこの指輪の石こそが契約の礎であるといえるのだ。この指輪に嵌めこまれるべき青は臈たげなる青き華。契約者である主そのものだ。
「ああ、喉が渇いたな。タナカ、何か冷たいものを持ってきてくれ」
「かしこまりました」
 あくまでも忠実なる執事は完璧な動作で一礼し、部屋を出て、誰にも聞こえないほどの声で小さく呟いた。
 ――貴方こそが私の王。我が臈たけき悪の華。



 「臈たし」って形容はあまり男性には使わないものらしいんですが、女王様気質のパパにはむしろぴったりだと思うのです。