ぬこしゃくのすっぱいぶどう
ぴょん。ぴょーん。
アレイスト少年は頭痛を感じた。またか。またあの変な小動物だ。いかにも何も考えてなさそうな顔つきと猫のような耳としっぽを除けば自分によく似ているあたりが更に苛立たしい。この前夢で見た小動物。まさかまた見ることになるだなんて思わなかった。
夢の中では空は青くすっきりと晴れていて、猫っぽい例の小動物はたわわにブドウが実った木の下でさかんに飛び跳ねている。
「あまそうなぶどう〜♪」
ぴょん。
どうやら彼(?)はブドウを取ろうとしているらしく、精一杯手を伸ばして跳び上がるが、その手はブドウにかすりもしない。
(明らかに無理だろ……あの背丈じゃ……)
一応仕立てのよい洋服を着てはいるものの、小動物の背丈は歩き始めたばかりの子供ほどしかない。いくらブドウの木が低木類でも、その背丈ではサーカスで用いられるようなトランポリンでも使わないかぎり果実に触れることすら不可能だろう。
ぴょーん。
それでも小動物はこりずに跳び続ける。
(だから届かないってば!ああもうイライラする!)
自分の意識だけがリアルタイムで小動物の様子を見つめている。見ているだけで何もできないのにアレイストはひどく苛立っていた。どうしてあの小動物は自分の身の丈を理解できないのか。あれなら邸で飼っているコリーの方がまだ利口だろう。
ぴょーん……ドテッ。
(……あ、転んだ)
あきらめずに跳び続けていた彼が着地に失敗してついに転んだ。ちょうど背中でしっぽの上に着地してしまったらしく、小動物はたちまちウルウルと大きな目いっぱいに涙をためる。
「……う…うッ……」
今のところはなんとかこらえているようだが涙腺が決壊するのは時間の問題であるようだ。
(だから無理だってさっきから何度も言ってるのに……)
小動物は起き上がり、背中の下敷きになっていたしっぽを引っ張りだして撫でさすりながらはるか上にあるブドウを睨みつけた。そしてついに辛抱たまらなくなったのか、ぼろぼろと盛大に泣き始めた。
「うう……うわーん!!」
(ああ……やっぱり……)
自分と同じ顔をしているだけに、よけい情けなくなってくる。
「ばかばかー!あんないじわるなぶどうがあまいわけないもん!ぜったいすっぱいもん!うあーん!」
泣きながら小動物はポカポカとブドウの木の根元に小さく握った拳をぶつけ始める。耳をぴくぴくと震わせながら泣く声は次第に高くなるが、しっぽだけはへたりと垂れたままだ。きっと動かすと痛いのだろう。
「あんなぶどうキライ!すっぱいぶどうなんかいらないもん!」
(……頭大丈夫か?)
しかし意識だけの自分が彼をどうにかできる筈もなく。アレイストはただ、じたばたと駄々をこね続ける小動物を眺めながら自分の思考を疑うことしかできなかった。
負け惜しみ。
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