The Lost page




 旦那様のご遺志は、ぼっちゃまへ無事に伝わったでしょうか。

 いずれにせよ、これが当面の間最後の日記、ということになるでしょう。日記帳をセバスチャンに託し送り出した今となっては、このページを読む者は誰もないでしょうが、かろうじて焼け残ったこの机で日記をしたためるのも今日が最後でしょうし、せっかくですから書いておきましょう。
 ぼっちゃまがセバスチャンに伴われてお戻りになった後、私は左腕を失ったセバスチャンの代わりにぼっちゃまのお召し替えを行い、日記帳をセバスチャンに託し、ふたたび邸を後にするお2人をつい先ほど見送りました。

 お2人の旅先は存じませんが、ぼっちゃまは最期までご自分の意志を全うなさるでしょう。気がかりなのはむしろセバスチャンの方です。彼が実際誰であるのか、何であるのかを結局ぼっちゃまは最後まで口にはなさいませんでしたが、ぼっちゃまが旅立たれた後、彼はどこへゆくのでしょう。ぼっちゃまの旅立ちを見送った後で、或いはぼっちゃまと共に、彼はどこへゆくつもりなのでしょうか。その先について私はもちろん存じません。しかし、セバスチャン自身もその先については知らないのではないか、私にはそう思われてなりません。ただ語らなかっただけであれば問題はありませんが、もし本人さえもそのことを自覚していなかったとしたら……いえ、これ以上は年寄りがあれこれ思いをはせても詮ないことですね。

 ぼっちゃまが今後この邸へ戻って来られるかどうかはわかりませんが、もし戻って来られた時には不自由な思いをしないで頂くのが私の仕事。焼け落ちた邸を再建し、使用人達を呼び戻して……セバスチャンが姿を消した今、私はまた忙しくなりそうですね。

 

 旦那様、私は私の仕事を全うできたでしょうか。



誰も見ることのない、最後のページ。