届かぬ手紙
*ライナー視点です。
*ジェイディスのくせしてジェイドが出てきませんOTL
*ライ→ディスっぽいくらいです。むしろ。
今日もディスト様は大きな机に向かって手紙を書いていらっしゃる。
「ライナー、インクが切れました」
ついこの間補充したばかりの筈だと思ったけど、新品のインク壜を持って行くと、確かに机の上のインク壜はもう空になっていた。そして、机の上といわず絨毯といわず、ディスト様を円く囲むように散らばった紙屑の山。
……もう何度書き直しされたんだろう。
「ライナー?」
「っは、はい!お持ちしました!」
便箋を睨みながらなにやらブツブツと呟いていた(きっと次の文を考えてらしたのだろう)ディスト様にインク壜を渡す。白い手袋をした手は信じられないほど器用に動いて、片手で壜の蓋を開けてしまった。
「まったく、ジェイドときたら人が何度手紙を書こうと返事の一つもよこさないんですから。でも私はめげませんからね。返事が来るまで書き続けてやりますよ」
内容なんて何でもいいんです!
そんなことを仰りながら、またくしゃくしゃに丸められた便箋が1枚、書き損じの山に加わった。
ディスト様は3日と空けずにこうして手紙をしたためる。けれど、返事を受け取られたことは一度もない。多分。多分というのは、僕が見ている限りではないからなのだけれど、ディスト様の言動から察するに、多分本当にないのだろう。
ジェイド・カーティスへの恨み言を口にしながらペンを走らせるディスト様の姿は、こう言っては不謹慎だけどすごく、生き生きして見える。ひょっとすると譜業をいじっている時より楽しいのかもしれない。もし返事が届いたら、どんなにお喜びになるだろう。
僕は教団服の胸に手を当てた。隠しの中には封筒が一つ、入っている。宛名はジェイド・カーティス。差出人はディスト様。多分3ヶ月ほど前にディスト様が出されたものだ。いつもの封蝋が見つからないからと若干違う色のもので封をされたから僕の記憶にも残っていた。
1週間前に届いたその封筒に開封された形跡は特にないように見えたけど、宛先不明で戻って来たものでないことはすぐにわかった。教団から支給されているのと同じ封蝋で封はされているにもかかわらず、中に入っている筈の便箋の手触りが感じられなかったから。きっとこの手紙を受け取った人物は中の便箋だけ抜き取って、元通りに封をした封筒だけを送り返してきたのだろう。
(そうだとしても、なぜそんな回りくどいことをするのかは全く理解できない)
(そこまでするくらいなら普通に返事を書くか、手紙のことなど放っておくか、どちらかにすればいいのに)
事情はどうあれ、無事宛先へ届いた後戻ってきたのだろう手紙。なのに、届いてから1週間が経った今になっても僕はこの手紙をディスト様へ渡すことができないでいる。どんな意味不明な返答でも、たとえ本当に開封していない手紙が舞い戻ってきたのだとしても、それが一旦ジェイド・カーティスの手に渡ったものだとわかればディスト様がこの上もなくお喜びになるだろうことはわかっているのに。
だって、この手紙からは嗅いだことのない匂いがするんだ。ディスト様がつけていらっしゃる香水に似たような感じの、だけどはっきりと違う香りが。まるでディスト様以外の誰かがこの封筒を懐深くにずっとしまいこんでいたかのように。届いてから1週間が経った今でも、封筒を取り出して鼻先に近づければあの香りがするだろう。紙に染み付いてしまっているのかもしれない。
「キー!思い出すだけで腹が立ってきましたよ!ライナー!今日はもうおしまいです!お茶の用意をなさい!」
「はい、ディスト様」
今日も手紙を渡せなかった。
End
わかりやすいのかわかりにくいのかよくわからないツンデレ。を書きたかった。
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