萌十夜 第七夜;イオルク




 雪国サイトの筈なのに何かだんだん雪国から離れていっているような気もしますが次回は雪国に戻りますのでどうか平にご容赦を。
 そんな訳でイオルクですが。実年齢、7歳と2歳。とんでもないな!!
 イオルクは短い恋にしかなり得ない。けれどそれはイオンが本編中に死亡するからではなくて。イオンの心を揺さぶったのはあくまで無印ルーク、親善大使着任前の、無知で傲慢だけれど素直なルークだったからなのではないかと山野は思うのです。

 この2人が出会うのがもう少し早ければ、おそらく歴史は変わっていたろうと思います。ルークが元々持っていた幼くて不器用な優しさを引き出し得たのはイオンだけだったから。
 山野は白イオンも黒イオンも大好きなんですが、まずは本編を素直に解釈して白イオンから。イオンは絶対初対面からルークに好意を持っていたと思うんだ。いや、初対面はローズ家での一瞬だから、正確にいうとチーグルの森での再会から。ダアト式譜術で倒れかけた自分を助けてくれたし。赤く艶やかな髪(メイド達とGGGの手入れの賜物)をなびかせて力強く進んでいくルークの姿はまさにちょ、どこの王子様?(注;イオンビジョン)
 口を開けば「べ、別にお前のためじゃヌェーよ」とツンデレ全開ですが、それが照れ隠しでしかないのは誰がどう見てもバレバレ。これでクラッとこない筈がない!
 そんな訳でお坊ちゃまルークに既に好意を持っていたイオンとしては、以降もずっとルークに好意的。イオンは自分の発言の重みをよく理解していたので(理解せざるを得ない立場だったので)親善大使着任後のルークを表立って庇ったりはしていませんが、彼がルークに対して内心苛立っていたような描写もありませんでした。まあ彼は誰にでも友好的に接していたといえばその通りではありますが。

 さて、アクゼリュス崩落までイオンはルークがレプリカであることは知らなかったと思います。もし知っていたなら、ルークが置かれている状況をもっとわかりやすく説明したでしょうから。ルークが外見年齢相応の状況認識をもっていれば、ヴァンの計略は成功し得なかった。
 崩落以後ルークがレプリカだからと責められる度、イオンも内心辛かっただろうなァ。特にアニスのコメントはメガトン級。彼女が自分を大切にしてくれるのは自分が導師だから。任務外で気遣ってくれるのは…自分が人だとみなされている故に過ぎない、と突きつけられるようだったんでは。
 なんとか仲間の信頼を獲得しようと奮闘するルークの姿は、微笑ましいというよりはむしろ痛々しいものとして、イオンの目には映っていたでしょう。明日は我が身、と思うこともひょっとするとあったのでは?
 自分が代わりであることを知らなかったルークは現実の冷たさに押し潰されそうになりましたが、それを知っていたイオンはイオンで、同じく冷たい現実を味わいながらもそれを他者に知られる訳にはいかない以上、1人で耐えるしかなかった。

 ルークと出会ったことで、少なくともイオンの人生は変わったと思う。もしルークと出会わなければ、イオンは案外世界の命運なんてどうでもよかったのではないでしょうか。たとえ無辜の人々の運命を心配していたとしても、世界を変えるための行動には踏み切れなかったかもしれない。水のように広がり人々を潤すけれど、いずれは流れ去ってしまう博愛。
 イオンが真に人の優しさに触れた(と感じた)のは、ルークが初めてだったんじゃないかなァ。導師イオンではなくイオン本人に対する打算なしの素直な気持ちを受け取ったのは。教団関係者にそれがなかったとは言い切れませんが、彼らはたとえどんな局面にあろうとも「導師イオンを優先する」という義務から逃れ得ないため、自由な立場からイオンに優しさを与えることは厳密にはできません。イオンへの気遣いが完全に自由意志に基づくものであるということを示す手段はありませんから。


 ちなみに山野は黒イオンも大好きなんですが。その場合、イオンはかなり初期の段階でルークがレプリカだと気付いてた可能性があります。自分自身がレプリカである以上、レプリカの存在や特性については当然かなりの部分知っている筈で。お坊ちゃまとしてもかなりおかしいルークの言動、そして時々見られるジェイドの奇妙な言動。イオンは当然ジェイドがレプリカ研究の権威であることも知っているでしょう。イオンもアクゼリュスの惨劇の引き金を引いた1人である以上、白イオンがアクゼリュス前にルーク=レプリカ疑惑を持っていた可能性はまずないでしょうが、黒イオンならそれもありうるかもしれない。無論、黒だからって人々の命を顧みない行動に出るかといえばそれもちょっと短絡に過ぎるので微妙な所ですが。
 けれど事前にルークレプリカ疑惑を勘付いていたか否かに関わらず、アクゼリュス崩落後、黒イオンはルーク以外どうでもよくなったりなんかして。ありえないことじゃないと思う。
「ユリアは預言を詠むことで世界を滅びの運命から解放しようとしていたのでしょう。でもそれが彼1人に世界の責任を負わせねばなされないことならば、僕は世界の解放など望みません」
 これぐらい言っちゃいそうだ。いやむしろ言ってくれ。


 自分が「代わり」であることを知っていたイオンと知らなかったルーク。2人が出会ったことは世界にとっては僥倖でしたが、彼ら自身としてはどうだったんでしょうか。


 悲劇に向かうフーガ。