大切な事 時の逆行6
「これからどうしたら…」
ネビリムの寝ている医務室でジェイドは一人呟いた
元々過去の自分を殺し、ジェイドという存在を消滅させたかった
ジェイド「…違う…違う…」
独り言を呟きながら、答の出ない事を考えていた
過去に来てから結構な時間が経ったが、タイムスリップについて深く考えた事などない
「どうせ死ぬのだからそのあとの事など、どうだっていい…」
結果的に死ななかったが、それならそれで問題が生じる
帰るべき未来はなく、また帰る手段がない…
タイムスリップの理論を発案したのもジェイドだが、存在した過去を辿る事はできてもこれから作られる未来へ行く方法など見当もつかない
ジェイド「帰る…という表現は間違ってますね…」
しかし、この時代にいるには何かと不都合なのは確かだ
過去の自分と同じ世界に…
同時に存在してはいけないという意味ではフォミクリーの被験者とレプリカ以上だろう
ジェイド「…元の未来はどうなったのか…」
元の未来という表現にも違和感を抱きながら改めて自分のした事の重大さを噛み締めた
フォミクリーのような技術一つなくしただけで多くの人に影響が出る…
未来で係わり合った人々は過去の時点で亡き人…生まれない存在という事も有り得る
ジェイド「また同じ事を考えてますね…」
もう変えてしまったのだから…何度も自分に言い聞かせ、極力考えないよう努力した
ジェイド「やはりこの時代で生きていくしか…」
その考えに至った瞬間、思考を切り裂くようにネビリムが起き上がった
ジェイド「ネビリム先生…目が覚めたようですね」
声に反応してネビリムはジェイドの方を向いた
表情には焦りと不安が浮かんでいる
ネビリム「ジェイドは…小さい方のジェイドはどうなったの!?」
ジェイド「ご安心ください、過去の私も生きていますよ。あなたのおかげです」
微笑みながらそういうと安心した様子でため息をついた
ネビリム「…私…どれくらい寝てたの?…」
ジェイド「丸一日です。一応医者には診てもらいましたが安静にしておいてくださいね」
この人なら今すぐ飛び起きて仕事をしかねない
ネビリム「まったく…あなたはいつでも無茶をするのね…ジェイド」
ジェイド「あなたこそ…死ぬかも知れない状況で無茶しますね」
ネビリム「考えたわけじゃないけどね」
フフッと笑うその笑顔にはやはり色っぽさと幼さがある
ジェイド「それより二人きりの時は構いませんが皆の前ではカーティスの方で呼んでくださいね?」
ネビリム「わかっているわ。今はジェイドでいいでしょ?」
ジェイド「えぇ、もちろん」
その時ドアをノックする音が響いた
ネビリム「…誰かしら?」
ジェイド「入ってください」
足を踏み入れたのは子供ジェイドだった
ネビリム「どうしたの?」
子ジェイド「あの…先生…」
どうやら謝罪にきた様子だがジェイドは不思議な感じがした
子供の時に心から謝った記憶などない…子供時代の自分がそうする姿を見るというのは何とも表現しにくい気持ちだが、謝る相手のいる気分はどれほど気楽なものだろう…
子ジェイド「ネビリム先生…申し訳ありませんでした」
自分もこのように赦しを乞いたかった…
ネビリム「あなたのした事は決して悪い事じゃないわ…やってみなくちゃわからない…研究には失敗もつきものだからね」
頭を上げた子ジェイドは驚いた顔をしている
無理もない。その実験で殺しかけた人が微笑みながらいう言葉だ
子ジェイド「先生を…殺していたかも知れないのですよ…?失敗だったで終わるなんて…」
ネビリム「確かに人の命は軽くない…でも私が犠牲になって、あなたが大切な何かを知るなら安いものよ」
ジェイド「!…」
これが…ジェイドがレプリカなどと愚かな手段を使ってでも欲しかった恩師の言葉…
突然の言葉…しかし、それ以上望んだ言葉はない
ジェイドは頬を伝う冷たい雫を感じながら、それを見せまいと席を立った
ネビリム「どうしたんですか?」
ジェイド「何でも…ありませんよ」
おそらく子供ジェイドも泣いている
ネビリムは少し微笑み子供ジェイドを抱き寄せた
それでもその『大切な事』は…大人になった今でもわからないみたいだけど…
どうしよう…しぇんしぇいの度量の大きさが逆に怖くなってきました(笑)
すごく感動的なシーンなのに、こっそり重いものが隠されている気がします。ネビリムが生き残ったことによって未来は変わりましたけど、ジェイドは今度こそちゃんと大切なことを知ることができるのかどうか。子ジェイドも心配ですが、私は大人ジェイドの方が心配な気がします。
本人は報われたつもりになってるけどしぇんしぇいのいう「大切なこと」がまだ分かってないとか…!!
まだまだ予断を許さない展開ですああやっぱり愛してるメルさま!
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