ディスト「本当に行くのですね…過去の自分を殺しに…」
ジェイド「えぇ…タイムスリップのできる音機関の組み立てお疲れ様でした」
ディスト「時を遡るなんて常識はずれでしたが、あなたの理論で何とかなりましたよ。ただあまり多用できませんし指定した日時に戻れるか保証もありませんよ」
ジェイド「構いませんよ、私が…いえネビリム先生が亡くなる前なら…」
ディスト「そして自分を殺してフォミクリーという技術をなくすのですね…ですがあなたの存在もなくなるのですよ!」
ジェイド「またそれですか…」
ディスト「当たり前ですよ!過去の自分を殺して今生きているハズがありません!私は…」
ディストの説得を無視してジェイドは詠唱を始めていた。
ジェイド「炸裂する力よ…エナジーブラスト!」
初級譜術とはいえかなり威力を抑えていたがディストは気絶した。
ジェイド「行ってきます…」
ディストが止めてくれる事に多少の感謝はするが決心は揺るがせない。タイムスリップ中にすごい圧力を感じながら気がついたらケテルブルクの広場に立っていた。すでに空は暗かったがこの国は日が落ちるのが早い、おそらく夕方ぐらいだろう。
「何かすごい音がしたぞ!」「あっちだ!」
その付近にいた人たちの声が聞こえた。
ジェイド「まずいですね…騒ぎをおこしては…」
ジェイドは一番近くにあった建物に逃げ込んだ。
ジェイド「とりあえずここでやり過ごしますか…それにしてもこの屋敷は…」
ネビリム「こらジェイド!またサフィールをいじめてるの!?」
ジェイドは久しぶりに本気で驚いた。過去の時代に呼ばれるはずのない自分の名前を呼ばれたから当然だった。そうだ、ここはネビリム先生の屋敷…そしてあれは私の幼い頃…いろいろな事が頭を巡る中ジェイドは冷静に考えた。
ジェイド「やれやれ…あの馬鹿(ディスト)は設定した日時に戻れるか保証はないと言っていましたがまさか14、5年も狂うとは…」
ネビリム「あら…あなたは…?」
ジェイドの存在に気付きネビリムが声をかける。ジェイドは今目の前にいる子供ジェイドの未来の姿だと言えるハズもなかった。
ジェイド「私は…その………」
ネビリム「…!あなたはもしかしてここで教師として働きたいと電話をくださった方ではないでしょうか?」
ジェイドは予想もしなかったネビリムの言葉に驚きを隠せなかったがここは合わしておいた方がいいと判断した。
ジェイド「あ…はい自己紹介が遅れました、ここで働きたいと思ってきましたカーティスです」
こんな間に合わせの演技で長くもつとは思えないが見つかってしまった以上、不法侵入よりはマシだと判断した。
ネビリム「では採用試験を行いたいのですが…この子たちの授業があるので…」
ジェイド「あっ、終わってからで結構――」
ネビリム「そうだ!この子達の授業をしてもらえませんか?そうすると採用試験もできて一石二鳥ですし」
ジェイドが言い切る前にネビリムは強引に提案してきて断れず結局授業をする事になってしまった。
音素学、言語学、地理、歴史、数学…あらゆる分野で好成績を納めているジェイドにとって子供相手に授業をするのは簡単だった。ネビリムもジェイドを気に入ったようだった。
授業は何事もなく終わったがかつて同期の生徒を名指しで呼ぶのは抵抗があった、特に過去の自分の名前は…
ネビリム「では、明日から正式に教師として働いてもらいますねカーティス先生」
ジェイド「あ、…はい」
不思議な感じがした。子供の頃は第七譜術士であるネビリム先生に憧れていた。その先生も今の自分から見れば10歳近く若い。大人の魅力があった先生も今は幼いという表現もできなくはないと思った。だが子供ジェイドとはさらに20歳も差があるのだ。
職員室に入ると他の教職員の方々も歓迎してくれた。ジェイドはもう計画がスムーズに進まない事に少しため息をついた。誰にも見つからずに殺せればよかった…ネビリム先生はおろか過去の自分にまで見つかり教職員と大勢の生徒に自分の存在が知られてしまった。この時代に今の私は存在していない…そう言い聞かせてもここにいるという事は否定できなかった。