カスタマイズド・鋏
グレルは怒っていた。かなり、腹を立てていた。
「謹慎中に突然呼び出されるのもどうかと思ったのに、何なのよこのデスサイズー!これじゃ美学も何もあったもんじゃないデショ!」
ちょきちょき。その両手には小さなハサミ、にしか見えないデスサイズ。
「黙りなさいグレル・サトクリフ。デスサイズなしで仕事がしたかったんですか?」
「アタシのデスサイズ使わせてくれないんならその方がいいわ」
「わかりました。では今回の審査報告書の作成はすべて……」
「……おっしごとお仕事楽しみDEATH★」
ただでさえ大量の魂を審査すると聞かされているのだ。その審査報告書の作成など、絶対に勘弁願いたかった。そんな訳で、せめてもと思ってダサイことこの上ない支給品の小さなデスサイズを丁寧に赤く塗ってきたというのに。
「カニと同一視ってどういうことよアンタ!説明しなさいよ!」
魂の審査そっちのけで、グレルは大鎌をぴくぴくと震わせて忍び笑いをこぼしている「伝説の死神」に掴みかかっていた。
「し、小生は悪くないよ。だってその姿……ぐふふ……」
「キー!乙女の姿を笑うなんて最低ヨ!謝りなさいってば!」
胸倉を掴んでがくがくと揺さぶる手の動きに合わせて揺れる赤いハサミ、もといデスサイズ。怒りのあまりその頬には朱が上り、羽織っている赤いコートもあいまってグレルの姿は完全に赤ずくめのカニに類似したものと化していた。まさに死神界のカニ。
「そんでもってウィル!アンタも黙々と仕事してる場合じゃないでしょ!アタシに赤っ恥かかせてくれちゃって、アンタの責任だってこと少しは自覚しなさいよ!」
ちょき。ちょきん。
グレルのことなどお構いなしで魂を刈り取っていたウィリアムが眼鏡のブリッジを押さえながらゆっくりと振り向いた。その眉間には、深い深い皺が刻まれている。
「死神は魂を審査するのが仕事です。助っ人としておいで頂いたその方はまだしも、ここは本来あなたの管轄区域でしょう?あなたこそ仕事をしなさい、仕事を」
――それともカニ頭では理解できませんか?
続けられた言葉に葬儀屋は吹き出し、グレルは頭から湯気が出んばかりの勢いで叫んだ。
「誰がカニよ!こうなったらアンタよりしっかり仕事してやるから覚悟しなさいウィル!」
ちょきちょきちょきちょきちょきんちょきちょきちょきちょきちょき……!
葬儀屋からパッと離れてすさまじい勢いでハサミをふるうグレルの姿を見て、葬儀屋はついにその場に座り込んでしまった。
「か、カニ、赤いカニが……あぁ〜いいねぇ、ぐへへ……」
さかさかと動くその動きがますますカニに酷似してしまっていることにグレルが気付いたのは、魂をすべて刈り終わり、その場に倒れ伏している葬儀屋の姿を直視してからのことだった。
サーカス編のシリアスな流れぶち壊しですみませんでした。だが反省はしない!