愛と憎しみの空中ブランコ




「何をしているんです」
 大勢の観衆に囲まれて揺れる1対の空中ブランコ。セバスチャンのブランコは規則正しく前後に揺れ、もう一方のブランコは……なんというか、奇妙な動きをしていた。そのくねくねした動きをたとえるならば、前へのベクトルと後ろへのベクトルがせめぎ合っているような、そんな動き。
「貴方の様な害獣と手を触れ合わせるなど絶対に御免です」
「あ〜んセバスちゃん、早くこの手を取って一緒になりまショ」
 眼鏡の位置を正してそっぽを向く「スーツ」と、オーバーに両腕を広げたついでに唇までとがらせている「レッド」の2人は1つの空中ブランコに乗りながらも正反対の動きをしている。ブランコの奇妙な動きは、そのせいで起きている現象であった。
「それではショーにならないでしょう?!」
 若干怒気をはらんだセバスチャンの声にも、2人が動きを変える様子はない。
「絶対にお断りです」
「アタシはちゃ〜んとお仕事しようとしてるわよぉ。ほらウィル、アタシとセバスちゃんの愛の共同作業、ちゃんと手伝いなさいヨ!」
「冗談ではありません。あんな害獣と手を繋ぐなど、貴方こそ死神として恥ずかしいとは思わないんですか?」
「アンタが潔癖症なだけでしょ。仕事に私情を持ち込むワケ?」
「む……」
 揺れるブランコの上でスーツとレッドがにらみ合う。その間も、セバスチャンのブランコは振り子のように揺れ続ける。一体いつになればこのやりとりはおさまるのか。
(いや、ブランコが止まるまであれが自然に止まることはありませんね……)
 さて、どうしたものか。急がなければブランコの動きが止まってしまう。
「いいから早く手を出しなさい!」
「絶対嫌ですと……」
 そして殺気を感じた刹那。
「言っているでしょう!」
 ウィリアムが持っていたデスサイズの刃先がセバスチャンの顔めがけて高速で伸びてきた。危うくかわしたセバスチャンは、迷わずその刃先を両手で力強く掴んだ。
「分かりました。そんなに私に触れたくないなら、こうすればいいんでしょう!」
 キャァァァアアア!!!
 セバスチャンがデスサイズの刃先を引いてウィリアムの体を宙吊りにした瞬間、テント内は悲鳴に包まれた。
「ちょっとォ!アタシを置いてけぼりにしようったってそうはいかないわよ!」
 ブラックが掴んだデスサイズの先に宙吊りになっているスーツと、その腰にしがみついているレッド。ただの高枝切り鋏にしか見えないデスサイズが折れてしまえば一巻の終わり。会場内の悲鳴は最高潮に達している。
「デスサイズを離しなさい!」
「そうはいきません、よっ!」
 セバスチャンはデスサイズをぐいと引いて手を離し、その反動で着地する。ウィリアムも無事に着地したようだ。ただ、ウィリアムの腰につかまっていたグレルだけは下半身が着地台からぶらんとぶら下がってしまった。
「もう、冗談じゃないワ!」
 しかしグレルとてただ人ではない。くるりときれいに宙返りしてウィリアムの前に無事おさまった。
 ワァァァァ。
 テント内が歓声に沸いた。



トンデモサーカス。